オーストラリア北東部のニューサウスウエールズに住んでいた先住民族アボリジニは、この地域の湿地帯に多く生息しているティーツリー Melaleuca alternifolia の治癒力を古くからよく知っており、さまざまな傷の手当てに使用していました。
皮膚病や怪我を治す不思議な力があると彼等に信じられていた「魔法の池」は、周りにティーツリーの樹木が茂り、その葉が池に落ち、優れた薬効を持つ成分が水に滲み出していたためではないかと言われています。
英語の慣用名ティーツリー(Tea tree=茶の木)の由来は、キャプテン・クックと共に世界一周航海をした英国の植物研究家・探検家のジョセフ・バンクス卿が1770年オーストラリアに辿り着いた際、この葉をお茶の代わりにして飲んだことからとされています。
20世紀に入ると薬効に関する科学的な研究がなされるようになりました。1925年A. R. Penfoldは、ティーツリーの精油には当時の標準となっていた殺菌消毒剤のフェノール(石炭酸)よりも12倍も強力な殺菌消毒作用があると発表しました*。
1930年代、原産国オーストラリアでは、皮膚に対し毒性も刺激性もない理想的な殺菌消毒剤として、ティーツリーは感染症の予防、皮膚病の治療など医療の様々な現場で使用されるようになり、第二次世界大戦ではオーストラリア軍の応急手当キットに加えられるほど需要が広まりました。
戦後、天然の精油に代わる化学合成殺菌剤や抗生物質が開発され、一般に流通するようになるとティーツリーの精油は一時市場から姿を消すことになりました。しかし、60年代に入り化学薬品の副作用が懸念され始め、人々が自然療法に関心をもつようになり、また、抗生物質の「耐性菌」の存在が確認されると、天然のティーツリーの精油が再び脚光を浴びるようになり、今日に至っています。
Reference:
*A. R. Penfold, “THE ESSENTIAL OILS OF MELALEUCA LINARIIFOLIA (SMITH), AND M. ALTERNIFOLIA (CHEEL),” Journal and proceedings of the Royal Society of New South Wales
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